昨晩は、伊勢の神宮で20年ごとに行われる式年遷宮の最も重要な儀式である 遷御(せんぎょ)が執り行われました。
遷御というのは、わかりやすく簡単に言うと、神様のお引越しです。伊勢の神宮では20年ごとに社殿を新たにして神様にお引越しいただくという神事を1300年前から制度化して続けています。今回の御遷宮は62回目となります。
近年のパワースポットブームなどと相まって、今年の神宮への参拝者は過去に例のない1000万人を超えることが確定的だそうです。
神宮に関するガイドブックや特集記事も例年になく多いようで、いろいろなものが刊行されているようですが、中には我々が見て「?」と思うような記事もあったりします。
大きく間違っているわけではないが、微妙に違うというものもしばしば目にします。
いくつかについては、FaceBook などで紹介したりしてきましたが、詳しく知りたいというコメントなどがありましたので、ブログのほうで取り上げさせてもらうことにしました。
久々に 連載記事 として綴ってゆこうと思っています。
(そもそも最近、ブログの更新自体が滞りがちでスミマセン)
とはいえ、市販のガイドブックも大部分が正しく記されていますから、新しいこと、知らないことが満載という訳にはゆきません。
ほとんどが 「知っているよ」 という内容になるかもしれませんが、ご容赦ください。
初回の今回は もっとも基礎的な部分を記しておきます。
よく「伊勢神宮」と表記・表現されますが、正式には「神宮(じんぐう)」とのみ申し上げます。
全国には ”神宮” のつく神社がたくさんあります。
東京の明治神宮、名古屋の熱田神宮などをはじめ、北海道神宮(北海道)、鹿島神宮(茨城)、香取神宮(千葉)、東京大神宮(東京)、氣比神宮(福井)、近江神宮(滋賀)、平安神宮(京都)、橿原神宮(奈良)、石上神宮(奈良)、吉野神宮(奈良)、伊弉諾神宮(兵庫)、赤間神宮(山口)、宇佐神宮(大分)、宮崎神宮(宮崎)、鹿児島神宮(鹿児島)、霧島神宮(鹿児島)・・・などなど。
これらの神社は全て ○○神宮 という名称ですが、伊勢は 伊勢神宮 ではなく 単に 神宮 なんですね。
ただ、私たち神職も一般の皆さんにわかりやすいように 「伊勢の神宮」と表現したり、普通に「伊勢神宮」「お伊勢さん」などと呼ぶこともあります。
さて、神宮といいますと、内宮(ないくう)と外宮(げくう)の2つの社殿を思い浮かべる方も多いと思います。少し詳しい方なら、荒祭宮(あらまつりのみや)や多賀宮(たがのみや)などの別宮も思い浮かべるかもしれません。
神宮は2所の正宮(しょうぐう)と14所の別宮(べつぐう)、109の摂社(せっしゃ)・末社(まっしゃ)・所管社(しょかんしゃ)の合計125のお社から成り立っています。
そしてこれら125のお社の鎮座地は三重県伊勢市を中心として、松阪や鳥羽、志摩にも広がります。
内宮は正式には皇大神宮(こうたいじんぐう)といい、皇祖神である天照坐皇大御神(あまてらしますすめおおみかみ)をお祀りしています。一般には天照大神(あまてらすおおみかみ)と呼ばれる神様ですが、神宮では祭祀の際には特に御神前で慎み畏んでこのようにお呼びしています。内宮所管の別宮は10、摂社は27、末社は16、所管社は30あり、さらに別宮の所管社が8あります。
外宮は正式には豊受大神宮(とようけだいじんぐう)といい、御饌都神(みけつかみ)である豊受大御神(とようけのおおみかみ)をお祀りしています。
第21代雄略天皇の御夢に天照坐皇大御神の御教があり、丹波国に祀られていたこの神をお迎えしたと伝えられています。
外宮所管の別宮は4、摂社は16、末社は8、所管社は4あります。
別宮とは宮号(きゅうごう)を有する社です。両正宮を本宮としてその別れの宮という意味です。
内宮所管の別宮は
- 荒祭宮(あらまつりのみや)・・・天照坐皇大御神荒御魂(あまてらしますすめおおみかみのあらみたま)を祀る
- 月読宮(つきよみのみや)・・・月読尊(つきよみのみこと)を祀る
- 月読荒御魂宮(つきよみあらみたまのみや)・・・月読尊の荒御魂を祀る
- 伊佐奈岐宮(いざなぎのみや)・・・伊弉諾尊(いざなぎのみこと)を祀る
- 伊佐奈弥宮(いざなみのみや)・・・伊弉冉尊(いざなみのみこと)を祀る
- 滝原宮(たきはらのみや)・・・皇大御神御魂(すめおおみかみのみたま)を祀る
- 滝原竝宮(たきはらのならびのみや)・・・皇大御神御魂を祀る
- 伊雑宮(いざわのみや)・・・皇大御神御魂を祀る
- 風日祈宮(かざひのみのみや)・・・級長津彦命(しなつひこのみこと)、級長戸辺命(しなとべのみこと)を祀る
- 倭姫宮(やまとひめのみや)・・・倭姫命(やまとひめのみこと)を祀る
の10社、外宮所管の別宮は
- 多賀宮(たがのみや)・・・豊受大御神荒御魂(とようけのおおみかみのあらみたま)を祀る
- 土宮(つちのみや)・・・大土乃御祖神(おほつちのみおやのかみ)を祀る
- 月夜見宮(つきよみのみや)・・・月夜見尊(つきよみのみこと)、月夜見尊荒御魂(つきよみのみことのあらみたま)を祀る
- 風宮(かぜのみや)・・・級長津彦命(しなつひこのみこと)、級長戸辺命(しなとべのみこと)を祀る
の4社です。別宮については、いずれ個別に紹介したいと思います。
摂社は延喜式神名帳(えんぎしきじんみょうちょう)に記されている神社です。延喜式神名帳とは平安時代に編纂された法令集『延喜式』の巻9・10のことで、ここには全国の神社3000余社が記されています。延喜式神名帳に記されている神社を一般には「式内社」と呼びますが、摂社はいわば神宮所管の神社で式内社であるものと言えると思います。
(ちなみに伊太祁曽神社も式内社です)
末社は延暦儀式帳に記載があるが延喜式に記載のないものを言います。延暦儀式帳とは延喜式編纂よりも前の延暦年間に神宮から朝廷に提出された書面で、神宮の由緒や祭典などについて詳細に記されています。『皇大神宮儀式帳』『止由氣宮儀式帳』を総称して「延暦の儀式帳」という呼び方をします。
所管社は上記以外に神宮が祭祀の執行に直接関係のある神々をお祀りし、末社に準じて祭祀を行う神社を言います。
こういった多数の神社を総称して 神宮 と呼ぶのです。
ですから、これらを巡拝するだけでも、伊勢に何度足を運んでも毎回違う参拝の仕方ができるというのも、神宮のすごいところです。
次回は、神宮のお参りの仕方について記したいと思います。
[5回]
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